ラン種子の発芽法

 熱帯原産のランの種子とは異なり、温帯から亜寒帯にかけて分布するランの種子は完熟すると休眠状態に入ります。そのままでは発芽しませんので、まず一定期間冷蔵庫に入れ、冬を疑似体験させることにより休眠から目覚めさせます。休眠から覚めた種子を人工的に発芽させる方法は二つあります

 一つ目は無菌発芽法です。種子をブリーチなどで完全に殺菌して、栄養豊富な培地に蒔きます。培地には多くの種類があり、ランの種類によって相性があります。いずれも炭素源としての砂糖の他に、窒素・リン酸・カリウム等の植物の生長に必須な栄養塩類、アミノ酸類及びビタミン類を含んでいます。種子は培地から栄養を吸って発芽し始めます。この方法は、比較的簡単ですが生存には適さないような弱い種子も発芽してしまうため、自生地の復元用には適していません。園芸用の苗の増殖に向いています。

 二つ目は、共生発芽法です。まず下の写真のようにランの根から共生菌を分離します。菌の分離にはかなりの熟練を要します。次に種子を栄養の乏しい培地(たとえばオートミールの粉を培地1リットル当たり2g加えたもの)に蒔き、菌を接種して発芽させます。接種のタイミングも重要で、レブンアツモリソウの場合は休眠から目覚めさせて後、菌を接種すると多くが発芽します(文献4)。発芽したプロトコーム(注1)は定期的に新しい培地に移して徐々に生育させます。発芽と生育には時間がかかり、鉢上げできるサイズになるまでには2,3年くかかります。自然を真似ているので、苗は自生地の復元用に適しています。

 菌の分離は大変難しのですが、私どもはレブンアツモリソウ共生菌の分離に成功しました。いまではレブンアツモリソウは共生でも無菌でも発芽させることができます (文献3, 4)。

注1. ランの種子発芽時に見られる球状の構造体でここからやがてシュート(葉と茎の総称)と根が出ます。

 

文献3. Shimura, H. and Koda, Y. 2004. Micropropagation of Cypripediium macranhos var. rebunense through protocorm-like bodeis derived from mature seeds. Plant Cell, Tissur and Organ Culture. 78:273-276.  

文献4. Shimura, H. and Koda, Y. 2005. Enhanced symbiotic seed germination of Cypripedium macranthos var. rebunensefollowing inoculation after cold treatment. Physiologia Plantarum. 123:281-287.