ランの増殖を妨害するもの

様々な要因が、ランの人工増殖を妨害します。その主だったものと、現在試みている対策を紹介します。

① 種子の無菌発芽時に起こるコンタミ

 種子はブリーチ(次亜塩素酸ナトリウム溶液)で表面殺菌して無菌的に培地に蒔きますが、果実内に枯草菌(Bacillus subutilis)が侵入した場合は、枯草菌によるコンタミが生じます。枯草菌は納豆菌の仲間ですので、コンタミしたものは納豆に近い臭いがします。枯草菌の胞子(芽胞)は熱や化学薬品に耐性で、熱湯やブリーチでも死滅しません。コッホの殺菌法(間歇的に熱処理して芽胞を発芽させ死滅させる方法)を真似て、間歇的にブリーチ処理すると枯草菌は死滅しますが、種子にも害があり、発芽率は極端に低下してしまいます。枯草菌の芽胞は果実の傷口から侵入しますので、虫食いなどの傷の無い、健全な果実を選ぶ必要があります。完熟して果皮が割れ始めたものは、使えません。

② 無菌培養中のコンタミ (コンタミの項 参照)

③ 無菌培養中の褐変枯死

 無事に発芽し順調に生育していた株でも突然に褐変し、枯死してしまう場合があります (下の写真)。原因は不明ですが、根から放出された不要物質による自家中毒による可能性があります。定期的に早めに新しい培地へ移植すると、防ぐことができます。鉢植えや地植えでも、根が真っ黒になり枯死してしまうことがあるそうですが、これも定期的な移植で防げるのではないでしょうか?

 

④ ナメクジによる鉢上げ後の食害

 鉢を直接地面に置いて生育させると、ナメクジが春先に出た芽を食べてしまいます。その株は助かりません。殺ナメクジ剤やナメクジ忌避剤はある程度効きますが、食害を完全に止めることはできませんでした。鉄の足場パイプで台を作り、それに載せると防ぐことはできますが、重いし費用が嵩みます。1x8材で作った木枠に防腐剤を塗布し、その上に簀子を置いて鉢を載せたところ害はほぼなくなりました。定期的に防腐剤を塗り替えれば効果は持続すると思います。

しかしこの方法も万全ではなく、特に若い芽の食害が起こるため、少しずつ、足場パイプの棚を増やし、木枠は越冬箱として用いています。


 

⑤ ミミズの害

 越冬に失敗して発芽しなかった鉢の中身を広げてみると、根が真っ黒に変わり鉢の中に数匹のミミズが侵入していました。根を食害して株を枯らしてしったと考えられます。根が腐ったからミミズが入ってきたのか、はたまたミミズが積極的に根を食い荒らしたのか定かではありません。鉢置き場の周辺は芝生になっており、芝生にはたくさんのミミズ塚ができています。芝生でミミズが増えて、生育範囲を広げて鉢に侵入してきたものと思われます。ミミズを退治するために、椿油粕を使ってみました。サポニンが効くそうです。処方にあるように一平方メートル当たり50g程の椿油粕をまき、充分に散水したところ、うじゃうじゃミミズが出てきました。2時間で80平方メートルの芝生からなんと500g程のミミズが取れました(下の写真)。椿油粕は芝生の成長には影響しませんでした。これから毎年、この方法でミミズ退治をやるつもりです。

 

 またミミズ対策として、鉢底には鉢底用ネットに加えて不織布を敷いてミミズの侵入を防ぎ、用土には有機物は用いず、硬質火山灰と硬質赤玉土のみを用いることにしました。また今までは越冬時に鉢を地面に並べて蓆や枯葉で覆っていましたが、この過程でミミズが侵入します。現在では地面には防草シートを敷き詰め、その上に先のナメクジ対策用の木枠を置いて、その中に鉢を並べ、上には発泡スチロール版を載せて断熱し、越冬させています。

⑥ 越冬時の根の腐敗

 2016年度の秋から2017年度の春までの越冬成功率はこれまでにないほど低く、70%以下でした。中でもレギナエの大株がかなりやられてしまいました。2017年秋には5000倍に希釈したベンレート(殺菌剤)を充分に与えてから越冬箱に仕舞い込みました。越冬成功率は大幅に上がり、レブンアツモリソウ、レギナエ共に98%でした。殺菌剤はランの共生菌も殺してしまいますが(レブンアツモリソウの共生菌はベンレート一万倍液で完全に死にます)、葉を展開して独立栄養になったランは、共生菌が無くても生きていけます。越冬前のベンレート処理は越冬中の根腐れ防止に卓効があると言えます。

 植物の栽培は、人間と植物を害する生き物たちとの三角関係のバトルですが、いろいろと工夫を重ねて、このバトルに負けないようにしたいものです。