ヒメホテイラン(Calypso bulbosa var. bulbosa)

 ヒメホテイラン の仲間(Calypso bulbosa)には4つの亜種があり、ヨーロッパ、アジアおよび北米に分布し、何れも日のあまり当たらない林床に生育しています。英語では「the fairy slipper orchid、妖精のスリッパ」あるいは「the hider-of-the-north、北の隠れ人」などと、しゃれた名前で呼ばれています。亜種の一つであるvar. bulbosa は日本では北海道南部のごく一部と青森県に見られます。青森県では、必ずと言ってよいほどヒバ(ヒノキアスナロ)の林床に見られます。園芸的価値が高く、自生地から多く採取され続けたため数が大幅に減っています。植物体は球茎(最大で直径1.5 cm程)と、そこから出た一枚の葉及び貧弱な根から成ります。花芽は秋に球茎の頂部から伸び、雪解け後、間もなく開花します(札幌では4月中旬から下旬)。独特の芳香を放ちます。盛夏の時期は葉が枯れ、秋には球茎の基部から側芽と葉が出て成長し、そのまま越冬します。山から採ってきたものを庭で栽培すると数年のうちに枯れてしまうそうです。安定した生育には共生菌が必須であると思われます。共生菌はヒバの外生菌根菌である可能性が高いです。ヒバの根から菌の分離を試みましたが、ひどいコンタミが生じ(コンタミの項参照)失敗しました。実験は失敗するのが普通です。私の現役時代の様々な実験の成功確率は一割以下でした。菌の分離も今後何回も試みる必要があります。

 無菌発芽は成功しました。1年ほどかけてインビトロ(注2)で移植を繰り返しながら培養を続けると球茎が肥大し、花芽が成長し始めました(写真下、黒棒は1cm)。自然界でこれほど大きな球茎はめったに見られないと思います。(注2)in vitro 。「ガラス容器(試験管)内で」の意で、ここでは転じて無菌状態を表します。

 

 上手く管理するとインビトロでも開花させることができました(下の写真)。


 肥大した球茎を秋に鉢上げし、雪の下で越冬させたところ、無事開花しました(写真下)。面白いことに白花も混ざっていました。培養時に球茎にため込んだ栄養を用いて開花に至ったのでしょう。次年度も花をつけられるか、また何年間生きられるかを調べる予定です。安定的に増殖することができ、

ヒメホテイラン果実募集中:自生地から採取する人が無くなる事を期待して、大量増殖を試みていましたが、3年ほど経ったころにコンタミが多発しインビトロで持っていた株の全てがだめになってしまいました。再び人工増殖を行いたいのでヒメホテイランの果実をお分けいただける方を探しています【2021年3月現在)。果実は裂開直前の若いものが望ましいです。上手く増えたら株の半分をお返しします。お分け頂ける方はお問い合わせのページからご連絡ください。