カラフトアツモリソウ (Cypripedium calceolus) の問題

 礼文島北部の鉄府地区のレブンアツモリソウの群生地にはカラフトアツモリソウが数株存在します(写真左)。これがレブンアツモリソウ群落にとっての大きな脅威になっています。レブンアツモリソウとの交雑が可能なため両者の雑種個体が増え始めているのです(写真右)。レブンアツモリソウの花粉は主にニセハイイロマルハナバチによって運ばれます。この蜂が、カラフトアツモリソウの花粉をあちこちに運べば、このあたり一帯が雑種化してしまうでしょう。このカラフトアツモリソウは、もともと誰かが種子を蒔いたか、あるいは移植したものでしょうが(実際に種子を蒔いたという人はいます)、「礼文島の固有種である」と主張される方がいるのです。 もし固有種なら、このカラフトアツモリソウはレブンアツモリソウより希少種であることになります。 しかし人為であれ自生であれ、雑種の蔓延を防ぐためには早急に、隔離栽培すべきでしょう。

 最近、中国から様々なアツモリソウが輸入されホームセンター等で安価に手に入るようになりました。買ったものは自宅の庭できちんと管理し、外には絶対に出すべきではありません。盗掘は法律で禁止されていますが、外来種の不法移植も厳しく取り締まるべきです。

 余談ですがこの件とは別に、カラフトアツモリソウに関して私が頑固さを発揮してしまったことがあります。 ヨーロッパ北部にはカラフトアツモリソウはかなり分布していますが、イギリスでは絶滅寸前で1株が残されているだけだそうです。イギリスのキュー植物園の職員の方から、「一株残されたカラフトアツモリソウの種子を共生発芽させたいので。レブンアツモリソウ共生菌を分けてほしい」と頼まれました。菌を海外に送る際は、「病原菌ではない」という証明書を日本の植物防疫所からもらう必要があり面倒なのですが、人助け(植物助け)なので菌を送る方向で考えていました。しかし先方から送られてきたいくつかの書類の中に「寄贈願い」なるものが含まれていたのです。その中に ① 寄贈させて頂きたい、② 寄贈物に関しては研究用に用いる限り、当方(寄贈者)は一切の権利を放棄する、と解釈できる文言が入っていました。私には「寄贈させてやるぞ、有難く思え」「寄贈物に関しては何をやろうとこちらの勝手だ」といった、ニュアンスが感じられたのです。悪しき大英帝国の名残のような気がして、結局、寄贈は止めにしました。