レブンアツモリソウ苗の鉢上げとその後の管理

 鉢上げ後の株の成長には大きな個体差があり、生育年数と開花には明らかな関係は認められません。株の重さが10gを超えると開花能力を持つようになります。またそのような株のシュート当たりの葉の枚数は3~4枚で最大葉長は100~120mm、シュートの高さは120mm以上になります(文献 6)。共生発芽させたレブンアツモリソウは播種後6年目でこの要件を満たし、開花しました。

文献6. 永谷 工、高田純子、志村華子、幸田泰則. 無菌発芽および共生発芽由来のレブンアツモリソウの生育比較・開花特性.園芸学研究.14:147-155.2015

 

レブンアツモリソウの花の色:白とクリーム色があります。クリーム色は時間が経つと白っぽくなるため、「クリームが基本である」と考えている人もいますが、下の写真のように開花直後から色は異なっています。白は白同士、クリームはクリーム同士で交配して、色が固定できるかどうかを調べています。クリームが濃くなり、黄色になることを期待しています。固定までに最短でも十数年はかかるでしょう。

 

 無菌大量増殖:2012年から大量増殖を目指して、無菌発芽法の改良に取り組み始めました。培地の組成の最適化やコンタミ防止法の確立等を繰り返し試み、2018年になってやっと、苗をフラスコ内で順調に安定して生育させることができるようになりました。概略は下記の通りです。

 8月末に播種し、11月末まで4℃に置いて種子の休眠を打破してから常温に戻すと、翌年2月には直径1mm程のプロトコームが多数できます。その後は約1か月ごとに新しい培地に移植を繰り返して、褐変を防止すると共に成長を促進しました。生じたプロトコームの全てが順調に生育するわけではありません。9,000個のプロトコームを、11月まで10回継代すると500個になってしまいました。

 11月に苗トレーに発芽苗を30株ずつ植え付け(下写真左)外気を取り入れて低温(約5度)に保った暗所で4月まで越冬させ(中央)、その後外に出しました(右)。ナメクジ害を防ぐためトレーは鉄の足場パイプで組んだ台に置き、夏の晴天時は毎夕灌水しました。また月に一度は千倍に希釈した住友液肥2号を与えました。用いた水は井戸水ですので微量要素は特に加えませんでした。また葉の食害が発生したので、殺虫剤(トレボン千倍液あるいはオルトラン液剤500倍液)を適宜散布しました。予防のために定期的に散布した方が良いと思います。


 秋まで生育させたところ、同じ用土を用いても株によって成長に大きな差が生じました(下の写真、上が生育の良いもので、根が良く伸び白い大きな芽を持つ)。生存率は平均して80%程度でした。文献6で示したように、発芽苗の中で無事開花できたのは全体の約五分の一に過ぎません。生育の遅い苗は何時まで経っても開花しない可能性があり、これらはかわいそうですが早めに除去した方が良いようです。このように元気な苗の数はどんどん減っていきました。この結果は生育に適さない形質をもった種子が多いことを示しています。レブンアツモリソウは1果実当たり最大で5万程の種子をつけますが、その大部分は何らかの問題を持っているのでしょう。


鉢上げに適した用土:苗トレーには様々な用土を入れ、用土が成長に及ぼす影響を調べました。用いた用土は①硬質赤玉土微粒:日向土(硬質火山灰)微粒:有機質を多く含む種子発芽専用の細かな土(4:4:1)、②同じ組成の再生用土(後述)、③種子発芽専用土(細かくて軽く有機質の多い物)、④ホームセンタでーで売っている値段が中くらいの鉢物用土、④ホームセンターで売っている最も安い鉢物用土です。秋までの平均生存率と生き残った苗の生長状況は ① 95%(良)② 87%(良)③ 43%(不良)④59%(不良)⑤ 71%(きわめて不良)でした。やはり水はけと通気性の良い①と②が適していることが分りました。

用土の再生法:1~2年毎に植え替えを行うと、大量の使用済み用土が生じます。これを廃棄して新しい用土を購入すると、環境にも財布にも良くありません。そこで、用土の再使用を試みました。再使用を妨げる要因としては、次の4つが考えられます。①塩類集積、②微細な土(微塵)の生成によって鉢が目詰まりすることによる根の呼吸阻害、③微量要素欠乏、④病原菌、腐敗菌、有害微小動物あるいは苔の胞子や雑草の種子等による土の生物的汚染。①の問題は灌水時に鉢底から水が流れ出るようにすれば、塩類は貯まらないはずです。また雨水によって容易に塩類は溶出するので大きな問題では無いはずです。②は崩壊しにくい用土を用いることによって解決できるはずです。そのため火山灰と赤玉土にはできるだけ硬質の物を使用します。③は再使用時に微量要素を添加すれば済みます。④が最も面倒で、長期間、野積みで放置する方法が良く採られますが、場所と時間が必要です。そこで加熱によって邪魔な微生物を除くことにしました。直径60cmの金盥に使用済み用土を入れ(写真左)、水と少量の微量要素混合物と苦土石灰を混ぜて、焚火にのせ、全体が70℃程になるまで撹拌しながら熱します。この温度でほぼ全ての植物、動物、菌類、細菌類は死滅します。波板鉄板の上で放熱した後(左)、用土の袋に詰めて使用まで保管します。重いので腰を痛めるおそれがあり、コンクリートをこねる際に使う小さな平スコップで作業しました。この方法ではどうしても摩擦によって微塵が生じ、鉢が目詰まりし易いので、鉢底には目の粗いネットを入れます。植え替え直後に十分に灌水すれば微塵は流れ出てしまいます。新しい用土を用いるに越したことはありませんが、今まで連続して2回、この方法で再生した用土を鉢上げに用いましたが、苗の成長に目立った害は見られませんでした。