レブンアツモリソウの発芽の謎

 

 園芸愛好家の間では、アツモリソウの親株の根元に種子を蒔くと発芽することが知られています。礼文町の高山植物培養センターでは十数年前から無菌発芽させた株を園内で栽培してきました。発芽後14年の古い株を掘り上げて成長状況を観察したところ、根の塊の直径は30cmを超え、根はまるで大盛り焼きそばのようでした。この根の間に、新しい株が何株か見つかりました(下の写真)。北大植物園でも開花した無菌発芽株の根元に蒔いた種子の一部は発芽しました。レブンアツモリソウの種子も親株の根元では発芽できるのです。しかし親株は無菌発芽由来ですから、共生菌は持っていません。レブンアツモリソウの共生菌はかなり特殊なものなので、普通の土壌中に一般的にいるとは考えられません。また2016年春には、私が育成しているレジネの大株の中にも、6株の発芽株が見られました。親株の根元での発芽はアツモリソウ属植物に共通に見られるのかもしれません。

 共生菌がいる場所では種子は発芽しますから、種子を蒔いてその発芽率を調べることができれば共生菌がいるかいないかを知ることができます。しかし、ラン種子は微細なので、蒔いた種子の回収は不可能です。そこで細かなナイロンメッシュで袋を作り、そこで種子を入れて印をつけて埋め、一定時間後に回収して袋の中の種子の発芽率を観察する方法がとられます。自生地でこの実験を行うと一年後にはかなりの確率で種子の発芽が見れらます。しかし、培養センター園内でこの実験を行っても、発芽した種子は全く見られませんでした。ナイロンの袋があっても菌は自由に中に入り込めますから、共生菌がいるなら袋の中の種子は発芽するのはずです。センターの親株の根元では「共生菌がいないのに発芽する」と言えます。どのようなメカニズムでこの発芽が生じたのか、全くの謎です。親株はその根元に付着した自分の種子に直接栄養を与えているのではないかと考え、いろいろと実験しましたが、全て失敗に終わっています。今後はレジネを用いて、いろいろと実験してみるつもりです。